3Dプリントを活用 衝突実験用の「おばあちゃん人形」ができるまで

車の衝突実験に使われるダミー人形は、1949年に導入されてからますます洗練され、本物そっくりになってきた。いまでは男性、女性、子ども、幼児と、ひとつの家族を再現することができる。実験においては、衝突が異なるサイズや性別の身体にどのような影響を与えるかを理解することが大事なのだ。

年配の乗客たちにもたらす影響を理解することはなおさら重要だ。骨がもろく、組織も丈夫でない彼らは、より身体の内部に損傷を負いやすいことが研究からわかっている。そのため、世界中で使われるダミー人形のデザインと開発を手がけるHumaneticsが「おばあちゃん型のダミー人形」をつくったのは当然の結果だった。

70歳の彼女は、身長161cm、体重73kg。典型的な年配女性の体型をしており、シートベルトが当たる腹部はぽっこりしている。この初の高齢者ダミー人形は、テクノロジーの進化をも表している。胴体から骨盤、頭部まで、すべてが3Dプリントでつくられた初の衝突実験用人形なのだ。

「これは未来のダミー人形の姿です」とHumaneticsのCTO、マイク・ビーブは言う。「私たちは最新の技術と素材を探求してきました。しかしそのときは誰も、それらの素材が衝撃に耐えうるかがわかりませんでした」

素材の探求

デザインエンジニアたちは胸郭のような高価なスティールのパーツを、より手頃な3Dプリント用のプラスチック素材やゴム素材で置き換えられるか確かめようとした。「もし肋骨に適した素材を見つけることができたら、ほかの組織にも応用できるだろうと思いました」とビーブは言う。

しかし彼らは、特殊な衝突実験の環境に耐えられる素材をなかなか見つけることができなかった。

従来の方法では、ばね鋼を熱して形成することで肋骨をつくっていた。衝撃への反応をコントロールするため、肋骨のなかには制振材が入れられる。肋骨をセットしてテストをし、望ましいパフォーマンスが出るまで制振材の量を調整する。

だが、この方法は高価で再現性が乏しい。テストのたびにスティールは劣化し、プラスチックやビニールでできたパーツは硬化したり縮小したりしやすい。そして、そうした変化のすべてがダミー人形に取り付けられたセンサーの精度に影響を与えてしまう。

 

衝撃に強いパーツづくりを研究

プラスチックとゴムの合成素材を使った初の3Dプリント肋骨は、チームが求めた特性の多くをクリアしたが、衝突実験には耐えられなかった。

「プラスチック素材を使っていくつかの肋骨を3Dプリントしました」とデザインエンジニアのクリス・スレンバーガーは言う。「しかし、20回テストをすると、肋骨にはひびが入り始めました」

そこでHumaneticsは、デジタルテクノロジーを使ったものづくりを行うAdaptive Corporationにアドバイスを求めた。彼らはオニキス(Onyx)を使うよう提案した。マサチューセッツを拠点にする3Dプリンターメーカー、MarkForgedが開発する、ケブラー繊維によって強化された炭素化合物である。

「MarkForgedがつくった肋骨に150回以上衝撃を与えました」とスレンバーガーは言う。「それでも壊れることはありませんでした」

この成功に続いて、Humaneticsは肩、背骨、腰、肩甲骨、胸骨、腕といったほかのパーツをプリントした。3Dプリンターでつくられたパーツは、価格の面ではスティールのものと変わらない。しかし耐久性は3倍になり、より速くつくることができる。

肋骨のセットをつくるのに、従来であれば2~3週間かかっていたが、いまや肋骨1本を24時間で、セットすべてを1週間以内でつくることができる。さらに3Dプリンターで鋳型をつくることで、組み立てにかかる労働コストが40~60%削減できることもわかった。

Humaneticsはまた、3Dプリンターによって特定の器官だけをつくる試みも行っている。これまでは胸部や腹部といった身体の部位ごとにつくるのが普通だったが、3Dプリンターを使えば肝臓や脾臓といった器官だけをつくることができる。これによって研究者たちは、それらの臓器一つひとつが衝撃によってどのような影響を受けるかをよりよく理解できる。

いまのところ、Humaneticsはまだ2体の高齢者人形をつくっただけであり、それらもさらなるテストを必要とする。しかし高齢者人口が増えるなか、年配の乗客に焦点を当てるのは間違ったことではないだろう。2015年、米国で運転する65歳以上の人口は4000万人以上。これはアメリカの道路を走る5人に1人のドライバーが高齢者であることを意味する。

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