森田正光さんが語るAI時代の気象予報士「予報はコンピューターに勝てない」

気象予報士がテレビ番組に登場し、翌日の天気予報をお茶の間に伝える光景を見ない日はない。彼らの予報は、物理方程式により風や気温などの時間変化をスーパーコンピューターで計算して将来の大気の状態を予測する「数値予報」が支える。その数値予報はスパコンの性能の向上などにより精度が上がり、今後は人工知能(AI)などの活用によるさらなる天気予報の精度向上も期待される。

こうした技術の発展は気象予報士の仕事に変化を生んでいるのだろうか。テレビ番組に登場する気象予報士のパイオニアである森田正光さん(ウェザーマップ会長)にAI時代の気象予報士の役割を聞いた。
コンピューターの予報は30年前から人より優れている

気象予報士の仕事を教えて下さい。
「予報自体はスパコンがほとんどを組み立てている。我々はその情報を得た上で『どうしてその予報になるか』や『その予報をどう使うべきか』を伝えることが一番大事。例えば猛暑日と予報したら日陰での行動を促すとか。天気は変えられないが、人の行動を変えることはできる。それによって色々なリスクをヘッジできる」

―予報自体は行わないのですか。
「今でも一生懸命に予報する予報士はいるが、私自身は予報そのものに興味がない。予報精度ではコンピューターに勝てないからだ。天気予報における(人間対コンピューターの)議論はとっくに終わっている。30年も前の話だ。コンピューターよりも人間の予報が正しいと主張する人は今でもたくさんいて『森田さんの予報を教えて』とお願いされることもあるが、私自身の予報は(数値予報の情報を)スマートフォンで見て伝えていると言いたい」

―コンピューターが人間の予報精度を上回ったのは30年も前のことなのですか。
「私の経験では1980年代後半から90年代が一つの転換点だった。数値予報は80年代には時々当たると言われる程度だった。ところが90年11月30日に台風が紀伊半島に上陸したのだが、その3―4日前に数値予報が台風を予測し、その通りになった。それ以降はコンピューターの方が優れている。だから天気予報の業界はコンピューター、AIと言ってもよいが、そういった技術が優れているということはいち早くわかっていた。ただ、コンピューターにも問題がないわけではない」

―問題とは何ですか。
「予報を算出するまでにコンピューターが何を考えているか分からないことだ。それが分からないと、後で実はその予報がとんでもない間違いだったということがあるかもしれない。予報の背景に何があるのか、天気図などを見ながら人間の知恵で明らかにすることが必要だ。人間独自の視点を持ってコンピューターと共存すればよいと思う」

気象災害の可能性をどう伝えるか

 ―西日本豪雨や猛暑など異常気象が多く発生しています。異常気象を予報することは難しいのでしょうか。
「決してそんなことはない。西日本豪雨も猛暑も予報そのものは当たっていたと思う。だからこそ伝える力がますます問われる」

―気象災害が発生する可能性がある時、予報士としてはどのような伝え方が望ましいと考えていますか。
「できるだけ早く避難行動をとってもらえるように伝えることに尽きる。それには情報をできるだけシンプルに伝えることが大事だと考えている。あとは日頃の自分に対する信用や信頼が関わってくる。私が避難を呼びかけることで、その言葉を信じて行動してもらえればと思う」

―一方で例えば猛暑日に「不要不急の外出はお控え下さい」などと予報士が伝えると、大きなお世話と捉えられるケースがあると聞きます。
「個人の行動にどこまで立ち入れるかは悩ましい問題だ。淡々と事実を言うしかないのかもしれない。例えば東京で気温35度の場合は『平均的に何人が緊急搬送され、そのうちの何人程度が亡くなる』という定量的な事実を言った方が伝わるかもしれない。絶叫して伝えても人は行動しなくなっている」

―そうなると気象災害の発生直前の伝達以上に事前の防災の呼びかけが重要になりそうです。
「(土砂災害や津波などの被害の想定範囲や避難場所などを示している)ハザードマップは非常に優れているが、ほとんどの人が確認していない。この存在を伝えていくことは大事だろう」

―テレビなどで予報を伝える気象予報士のパイオニアとして、後輩の仕事をご覧になって感じることはありますか。
「テレビなどに出演する気象予報士は私の部下がほとんどだが、もっと個性的にやってほしい。社内では『おもろない』とよく言っている。画一化こそが一番の敵だ。私は30代の頃に時間別の予報を始めたり『洗濯指数』を考えたりした。工夫すればまだやれることは一杯あると思う」

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