画像「無断転載」の情報開示請求、慣れたら10分でできる 裁判で約90万円勝ち取った写真家インタビュー

 個人で対処するのが難しいと思われがちな「画像の無断転載」。大切な写真やイラストが知らぬ間に盗用されているのは悲しいものです。とはいえ、いきなり弁護士に依頼するのもハードルが高く、二の足を踏んでしまいがち。

【画像】無断転載された写真

そこで今回は、弁護士を立てない「本人訴訟」の経験も豊富で、1回の裁判で約90万円の和解金を得た実績もある夜景写真家の岩崎拓哉さんに、無断転載に遭った際の対処方法についてご自身の体験を元に語っていただきました。

メールフォームでコンタクトを取らず、まずは相手の情報開示請求を

――無断転載をした相手に問い合わせる上でまず注意すべき点とは何でしょう?

岩崎:いろいろな交渉の仕方があると思うんですが、特に相手が匿名の「まとめサイト」などの場合、サイトに設置されたメールフォームからの連絡はおすすめしません。運営者情報が書かれていないサイトにいきなり問い合わせても、無視されたり匿名返事であることが多いんですよ。交渉するなら、ある程度相手の身元を特定してからのほうが良いと思いますね。

――こちら側の個人情報を一方的に握られてしまうリスクもありそうですね。

岩崎:私自身、匿名の相手に「メールの内容を公開するぞ」と言われて怖い思いをしたことがあります。実名対匿名では交渉が不利に感じました。最初は面倒くさいと感じる作業もありますけど、プロバイダーが間に入ってくれるので、開示請求をしてからの交渉が絶対に良いです。

情報開示請求の方法は半日で覚えられる

――開示請求は個人でもできるものですか?

岩崎:できます。「プロバイダ責任制限法」に基づく「発信者情報開示請求」という制度があって、慣れれば10分程度で書類が書けるようになります。私自信、過去に110件ほど開示請求を行って、そのうち約80件は開示に成功しています。

――すごい回数ですね……! 開示請求については、調べると「プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会」による解説ページが出てきますけど、正直読んでいて目がチカチカしてくるというか……。

岩崎:トップページを開いて、いきなりつまづきますよね(笑)。でも実は書く際の書式は決まっていて、実際に埋めなければならない項目って5つか6つくらいしかないんですよ。解説ページを開いて見てみましょうか。

まず開いてほしいのは「発信者情報開示請求」の欄にある「発信者情報開示関係書式」です。一見、「著作権関係書式」などが当てはまりそうですが、こちらは削除依頼用の書式なので間違わないように。このPDFを開くと9ページもあってくじけてしまう人が多いんですが、送るのに必要なのは3枚目までで、実際に書くのは2枚目までです。

自分の住所氏名を書いて、相手が侵害しているページと自身の転載されたページをプリントアウトして「別紙参照」で添付しつつ、相手について知りたい情報や、相手に示したくない情報にマルを付けていくだけです。レンタルサーバのプロバイダーが例ですが、知りたいのは相手の氏名・住所・電子メールアドレス、IPアドレス、侵害情報が発信された年月日および時刻の情報ですね。あとは免許証など身分証のコピーも同封する必要があります。

――こうしてみるとシンプルですね。

岩崎:費用もプリント代と、プロバイダーによっては印鑑登録証明書を求めてくることがあるので、その取得費用の数百円。あとは郵送時の追跡ができると良いので、簡易書留やレターパックにする費用とかで、合わせても1000円もかかりません。

――開示請求の結果が出るまでの期間はどのくらいですか?

岩崎:1~2カ月前後です。早いプロバイダーだと2週間くらいで返ってきます。困ったことに、プロバイダーも手続きに慣れているところと慣れてないところがあるんですよ。慣れていないところだと、いきなり弁護士から回答が来たりして、ビックリしますね。

プロバイダによっては「権利侵害が明らかではありません」「開示を受ける正当性がありません」等々、何かしら理由をつけて開示を拒否してくることがあります。特に対応の不慣れな中小プロバイダーの場合は逆に気を使いますね。中には「個人からの開示請求には応じません」と言われたこともありました。

――そういう場合はどうされるのでしょうか?

岩崎:その場合もまずは交渉ですね。「法人でなければ開示請求ができない法的根拠はない」と伝えたこともありました。書面での手続でどうしても開示に応じない場合は、プロバイダーに対して訴訟を起こし、裁判を通じて情報を開示してもらうか、裁判までは大変だという場合は、送信防止措置依頼と言って、プロバイダーに削除をお願いする方法も考えられます。

裁判で約90万円の和解金を得たケース

――最高で一度に約90万円の和解金を得ることに成功したのだとか。

岩崎:はい。そのときは弁護士に立っていただきました。相手はいわゆるユーザー投稿型のように見える「おでかけサイト」の運営企業で、私が撮影した写真が30点近く使われていました。最初にメールで60通ほどやりとりをしましたが、相手はかたくなに「引用」だと主張してきて、らちがあきませんでしたね。

――なかなか悪質ですね。

岩崎:画像には自分の署名を入れるようにしているのですが、無断転載されたサイトでは画像がトリミングされ、名前が裁断されているものもありました。

実はこの件ではすぐに裁判をしなかったんです。写真1枚に対して数万円の通常使用料相当の請求しかできず、弁護士にも相談しましたが費用面で苦しいと思い、諦めかけていました。ところが後から著作権に強い齋藤理央先生に出会い、「この場合はトリミングもしているので、著作者人格権侵害に対する慰謝料も上乗せできるはずです」と後押しされました。

――約90万円という金額はどのように決まったのでしょうか?

岩崎:当初、こちらは慰謝料も込みで440万円で提訴しましたが、最終的に相手が約90万円で和解に応じてくれました。裁判を起こす前、相手は「うちの会社はあくまでプロバイダーで、写真はユーザーが投稿したものである」と主張してきたんですよ。そうすると損害賠償以前に、ユーザーに対して開示請求をする必要もあり、こちらの負担が増えるじゃないですか。実際、ネットで運営企業の情報を調べていたら、自社に編集部を持っていて、ライターを募集していたようなんです。どこかで聞いたような話ですね(笑)。

――「漫画村」もユーザー投稿型をうたっておきながら、実際はサイト側がコンテンツを違法アップロードしているという形でしたよね。

岩崎:まさにそんな感じだったんですよ。ただ相手も「当時はユーザーが投稿できた」とか言ってきたんですね。とはいえ、こちらも相手の責任をどこまで立証できるか不透明だったので、弁護士さんに依頼して、損害額を計算してもらった上で、最終的に和解にまで持っていきました。

――弁護士に裁判を依頼すると、費用もそれなりにかさみますよね?

岩崎:着手金で最低10万円はかかりますよね。合わせて、成功報酬も考慮する必要があります。

――以前朝日新聞のインタビューで、司法書士※に依頼することでこの金額を抑えることができたともおっしゃっていました。

※140万円以下の示談交渉や簡易裁判所での代理人になれる司法書士は正式には「認定司法書士」と言い、認定を受けていない司法書士はこれらの代理行為ができないので注意が必要。

岩崎:司法書士というと登記や訴状などの書類を作ってくれるイメージが強いかもしれませんが、実は140万円までの事案なら代理人として、弁護士とほぼ変わらない動きをしてくれるんです。私の場合では、一般的な弁護士の半額程度で依頼できました。

サイト運営者「3万円しか払えません」

――司法書士に依頼した際はどういった事案だったんですか?

岩崎:このとき、ある匿名のまとめサイトに画像が20点近く無断で使われていました。プロバイダーに相手の情報を開示してもらった後、弁護士の先生に「20万円払ってください」という内容証明を送ってもらったんです。そうしたら相手が「お金がなくて3万円ぐらいしか払えません」と言ってきたんですね。こちらは既に弁護士に3万5000円ほど払って内容証明を送っているので、さすがにガクっときました(笑)。

あと、実は弁護士を通して連絡する前に、「直接お金を渡しにいきます」と提案されて「いえ振り込みでお願いします」といったやりとりもありました。

――えたいの知れないサイト運営者と個人的に会うのは怖いですね。

岩崎:ほんとそうなんですよ。現金を直接手渡しはちょっと……と、振り込みを要求していたら連絡が途絶えてしまって、最終的に弁護士に内容証明を送ってもらったんです。その後、裁判を弁護士に依頼すると費用倒れしてしまうことが分かり、他に方法がないか調べていて司法書士のことを知りました。

――著作権に強い司法書士を見つけるのは難しくありませんでしたか?

岩崎:難しいですよ。実を言うと私の場合も、特段著作権を強みとする先生ではありませんでした。インターネットで裁判業務に力を入れている司法書士さんを探して、比較的家から近い司法書士の先生に相談してみたら「やってみましょうか」と。

このときは最終的に10万円ほどで和解して、弁護士に依頼した内容証明代や司法書士に依頼した際の報酬や訴訟費用を差し引くと、手元には1万円ほどしか残りませんでしたが、費用的には赤字にならずに済みました。

本当は当初提示した約20万円を分割払いで請求しても良かったんですけど、その支払いが途中で止まったりすると強制執行とか差し押さえとか、また面倒な手続きが増えるので、妥当な着地点だったのかなと思います。

本人訴訟という選択肢

――岩崎さんは代理人を立てない「本人訴訟」も行われていますよね。

岩崎:請求を無視されたり、示談交渉が決裂した場合は、やむを得ず裁判を起こしています。これまで、本人訴訟が10回※で、代理人を立てたのは司法書士に依頼した件も含めて2回だけです。損害賠償を請求した裁判の相手はほとんどが偶然にも「まとめサイト」の運営者(企業)でした。

※内3回はプロバイダーに対する開示請求の訴訟や仮処分の申立。いずれも情報の開示に成功している。

――本人訴訟にするのか、それとも代理人を立てるのかという基準はどのように決めているのでしょうか?

岩崎:画像の使用点数と、人格権侵害(トリミング、氏名の削除等)の有無ですね。これを総合的に見て弁護士を立てるかどうか決めています。画像が1~2点で、トリミングもなければ、裁判で勝っても数万円程度にしかならないことも考えられます。それだと確実に費用倒れしてしまいます。

でも人格権侵害があれば、最低でも通常の使用料相当の金額+慰謝料が上乗せされる見通しが立つので、費用倒れが防げる可能性が高い。とはいえ慰謝料の金額は名誉毀損やプライバシーの侵害に比べれば、そこまで高額な判決は出にくいようです。また、費用面以外の理由としては、難しい事案に弁護士を立てなかったことにより、権利者側に不利な判決が出てしまい、後の人に迷惑を掛けたくないという思いもありますね。

民事訴訟は刑事ドラマのようにはいかない

――本人訴訟の場合は、ご自身で裁判に出向いて発言されたりするわけですよね。

岩崎:その辺のイメージについて、皆さん結構勘違いされてる気がします。刑事ドラマとは全然違うんですよね。民事訴訟に関しては「異議あり!」みたいなのはほとんど無いです。裁判といっても、ほとんど書面でのやりとりになるんですよ。

今日も1件開示請求の裁判がありまして、5分ぐらいで終わりました。訴状を提出して、裁判所に出廷するじゃないですか。すると相手は答弁書を出してきますよね。答弁書もシンプルで、「否認する」とか「追って主張する」とか書かれたもので。裁判官に「書面の通り陳述しますか?」と聞かれて、お互いに「はい」と言ったら終わるんです。

――確かに、ドラマのイメージとは違いますね。ちなみに、最終的に和解する金額をすり合わせるにはどうするんですか? 書面だと難しそうですけれども。

岩崎:細かい金額や条件は法廷ではやりとりしづらいので、別室に移動して行うことが多いです。別室では裁判官と原告と被告で話し合いをして、「これで和解しましょう」となったらそこで終わりです。細かな和解調書は裁判所の方で作成してくれて、「いくら払う」「債権債務を放棄するとか」「訴訟費用は各自負担にする」「○月○日までに振り込む」みたいなフォーマットがある程度あるんです。

――判決まで持っていかずに、和解で決着をつける理由はあったりしますか?

岩崎:和解のほうが、判決よりも支払われる確率が高いとされているからです。和解はお互い納得して条件を決められるので、例えば「和解で30万円」と決まった場合、相手は支払う気持ちがあって決めた金額になります。ところが判決というのは一方的な話なので、「判決で30万円」となると相手には不満が残りますよね。

仮に相手が「やっぱり払わない」となったときに、裁判所からは何もしてくれません。強制執行をするにも相手の銀行口座を調べたりとか、どこの会社につとめていて、財産がどこにどれだけあるかとか調べるのは大変じゃないですか。その手間を考えたら和解のほうが負担が小さく、裁判も早く終わるというのが主な理由です。

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